大規模整備から、地域の特色を生かした農業振興まで〜多様な地域と関われる、沖縄県の農業土木の醍醐味〜
「地域が抱える課題や、乗り越えるための工夫について一緒に考えることもあり、農業土木職として面白さを感じるところです。」
農家さんの声に耳を傾け、現場の課題を解決する。沖縄県の農業土木職の眞榮平さんは、県営事業の計画策定や市町村の指導、地域の農家の声を反映したきめ細やかな対応まで、幅広い業務を経験しています。
沖縄の各地を巡り、沖縄県の農業を支えてきた眞榮平さんのこれまでの歩みと、仕事への想いに迫ります。
ー経歴をお聞かせください。
眞榮平:地質や岩石が好きだったので、琉球大学に進学し、地学を専攻しました。卒業後、沖縄県庁の園芸振興課で1年間、非常勤職員として勤務しました。その後、約2年間民間企業で接客業や農業土木関連の仕事を経験し、平成28年11月に沖縄県庁に農業土木職として入庁しました。
ー「農業土木職」は、どのようなことをする職種なのでしょうか。
眞榮平:私の携わってきた業務としての農業土木職は、農家や農村を支える土木工事を行います。具体的には、農道の整備や、不整形な農地や小さな畑を大きな区画にまとめる区画整理などです。
農業支援には、農家さんの農業経営へのアドバイスや栽培技術の普及指導、品種改良等の研究開発といったソフト面の業務もありますが、私たちはインフラ整備といったハード面から農業を支えています。
ー沖縄県庁に入庁された理由を教えてください。
眞榮平:民間企業で働いていた時に農業土木という仕事を知り、農地の区画整理のような大きな工事に携われることに魅力を感じました。安定した生活基盤を求めていたことも理由の一つです。
市町村職員として地域に密着した活動をするのも魅力的でしたが、県職員として働くことで、沖縄本島から離島まで、県内全域を舞台に仕事ができることに惹かれました。
地域によって気候、風土、文化、そしてそこに住む人々の雰囲気も異なる沖縄で、それらに触れることができる点に魅力を感じ、入庁を決意しました。
ー入庁後の経歴について教えてください。
眞榮平:本庁の農地農村整備課で3年半、八重山農林水産振興センター農林水産整備課で3年勤務し、令和5年4月から南部農林土木事務所で働いています。
ー農地農村整備課では、どのような業務に携わりましたか?
眞榮平:市町村向けの予算関連業務を担当しました。各市町村への予算要望の調査、事業の割り当て、予算の配分などです。配分した予算が適切に執行されているか、工事が計画通りに進捗しているかなどを確認し、問題があれば関係者と協議を重ねることも重要な業務でした。
ー八重山農林水産振興センター農林水産整備課では、どのような業務に携わりましたか?
眞榮平:工事担当として、八重山地域の畑地かんがい施設、例えばサトウキビ畑などで見かけるスプリンクラーの整備などに携わりました。ヘルメットをかぶって現場に出向く機会が多く、工事業者と工事の進捗状況を共有したり、工事中に発生する問題の解決に向けて調整を行っていました。
先日も台風の影響で資材が届かず、工事が遅延するトラブルがありました。そのようなときは、他の予定業務を前倒しで進め、遅れを補えないか等の調整と検討を行います。
また、地権者の方への説明会も行っていました。工事の進捗状況や今後の整備計画などを報告するとともに、農家さんの意見を伺う場でもありました。その中で、農家さんが抱える苦労や、地域への想いなどもお聞きすることができました。
説明対象者は工事範囲内の方で、作物の種類は問いません。沖縄県はサトウキビ農家さんが多いですが、畜産農家さんや野菜農家さんなども対象です。植え付けている作物によって、植え付けの時期や収穫の時期が違い、施工をしてほしいタイミングも異なります。
ー現在の、南部農林土木事務所での業務について教えてください。
眞榮平:工事に着手する前の計画を立てる「計画調整業務」を担当しています。各市町村を担当する職員が決まっており、私は南大東村(南大東島)、北大東村(北大東島)、南城市、八重瀬町の4市町村を担当しています。
工事現場では、長期的な工事計画に基づいて工事が進められます。私の業務は、その元となる、より長期的な地域課題解決に向けた方針や事業計画の策定です。また、事業実施にあたり費用対効果の分析や、農家さんの要望(現在抱えている問題や将来の展望など)を、事業実施前にヒアリングし、計画に反映させていきます。
さらに、個々の現場だけでなく、市町村全体の地域計画を精査し、今後10年間の計画を確認していく業務も行っています。
ー冒頭に、地域によって気候、風土、文化、そしてそこに住む人々の雰囲気も異なるとお話されていましたが、実際に入庁して、どのようなことを感じましたか?
眞榮平:本島と離島、それぞれの市町村によって、農家さんの雰囲気や考え方も異なる印象です。島に行くと、島独特のゆったりとした時間の流れや、農家さんの地元への強い想いを感じることが多いですね。
現在、私が担当している南大東島と北大東島では、島を活性化したいという地元の方々の強い想いをひしひしと感じます。自分たちの生活基盤を良くするだけでなく、「活性化のために島外から人を呼び込むにはどうすれば良いか」といった相談を受けることも多いです。
例えば、サトウキビの植え付け前に、農地に堆肥や緑肥、肥料を撒くのですが、緑肥としてひまわりを植えて開花させることで観光に繋げたいという考え方があったり、植え付ける作物も景観を良くしたり、赤土流出防止対策になるものを選びたいといった要望もあります。
結果として、地元の環境整備にも繋がるような話が出てくるのも、面白いところです。
ー今までお仕事されていて、印象に残っていることは何でしょうか。
眞榮平:八重山で工事を行った時のことです。畑に機械が入れないほど土がぬかるんでいて、湛水被害がひどい畑がありました。そこの水はけを良くするための工事を急遽入れたのですが、その際は当初計画を変更して、工事を急ピッチで進めました。
工事が完了した際に、農家さんから「今まで野菜が根腐れして何も作れなかったけど、キャベツができるようになった」と、事務所まで来られて深々とお礼を言われたときは、とても嬉しく、やってよかったと心から思えた印象的な出来事でした。
ー沖縄県の農業土木職として働く面白さや魅力について教えてください。
眞榮平:沖縄県は農地自体が小さく、大規模農業は難しいですが、その分、地域ごとに気候が異なるため、農家さんの「それぞれの特色を生かした作物を生産する」という意識が強い点が興味深いです。
また、「地元で作れるものを、どのように作ってどのように流通させていくか」という点については、日本全国の農家さんが考えていますが、沖縄県はその中でも特色があります。本土は地続きであるため、地元での消費や都市部への直送が行いやすいというメリットがある一方、諸島である沖縄県の農家の方々は、作物をどのように長持ちさせ、流通させるかを深く考え、工夫を重ねています。
このように地域が抱える課題や、乗り越えるための工夫について一緒に考えることもあり、農業土木職として面白さを感じるところです。特に、南海の島国という地理を生かし、海外への輸出といった新たなルートを開拓しようとする動きを聞くこともあり、とても刺激になりますね。
また、大規模な新規整備を進めている地域があるため、区画整備や貯水池整備等ダイナミックな整備の計画や工事に携わることができます。一から新しいものを大きく作っていくことは、大きな魅力だと思います。
ー沖縄県庁の職場の雰囲気や特徴について、お聞かせください。
眞榮平:基本的に職員の皆さんは優しいですが、業務に対しては厳しい方が多いです。一方で、上司に気軽に話しかけたり、相談したりしやすい環境だと感じています。
特に農業土木職は人数が少ないこともあり、基本的に上司や部下は顔見知りの関係です。同じ職場の職員を「身内」と呼ぶことも多いくらいで、意見交換もしやすいです。そのため仕事の進め方もスムーズで、いい意味でアットホームな雰囲気があると感じています。
また、先輩や上司の方々は、様々な地域での経験を積んでいるため、地域住民への説明の仕方や地元の特色をよく理解しています。「この地域にはこんな人がいる」といった話を聞くこともあり、面白いです。
ー入庁前後のギャップはありましたか?
眞榮平:農業土木業務がここまで複雑で難しいとは、正直思っていませんでした。例えば排水路の勾配を一つ間違えるだけで、水がうまく流れなくなったり、地域にとって不要なものを作ってしまう可能性があります。そのため、綿密な調査や検討が欠かせません。
スプリンクラーの工事でも、ダムからポンプでファームポンド(貯水槽)に水を汲み上げてから散水するのですが、ダムやファームポンド(貯水槽)の容量には限りがあります。地域からの要望をすべて聞き入れると、水が足りなくなったり、水圧が下がったり、ファームポンド(貯水槽)の水がすぐになくなってしまう可能性があります。
こうした計算や調整も必要で、地域の要望をすべて叶えることは難しいので、どこまで妥協するか、その境界線を引くのが難しいですね。
ー引越しを伴う異動については、どのように捉えていますか?
眞榮平:様々な地域に行けるのは、一番の魅力かもしれませんね。農業土木職は、人数が少ないこともあり、離島での勤務も多いです。
そうすると、本島に住んでいてもなかなか行かないような離島に行って、その土地ならではの魅力に触れられるんです。島独自のお祭りや方言、地元の人も気づいていないような素晴らしい取り組みなど、広めた方がいいんじゃないかと提案ができるのは、この仕事の醍醐味の一つだと思います。
地元の人たちは意外と、自分たちの地域の魅力に気づいていないことがありますから。
ー今まで出会った地元の方が知らなかったような魅力には、例えばどのようなものがありますか?
眞榮平:石垣島や宮古島のような有名な観光地は、魅力も広く知られていますよね。一方、例えば南大東島は、一見サトウキビ畑ばかりで何もないように見えるんです。
でも、夜になると満天の星空が広がりますし、他の島とは違って海岸線が崖になっているので、港に行けば簡単に深海魚が釣れるんですよ。最近では「ナワキリ」というちょっと変わった魚を食べる機会もありました。
島ならではのゆったりとした時間の流れや、島民の温かい一体感も魅力ですね。私も2週間に1回は大東島、特に南大東島に行くので、商店の店主さんにも顔を覚えてもらって、地元の人と同じように接してもらえるのが嬉しいです。
ー今後携わりたい業務や、地域はありますか?
眞榮平:今、特に携わりたいのは宮古です。沖縄県の農業土木の中でも有数の大規模な工事を行っている場所で、予算規模も大きいです。八重山にいるときは、私はスプリンクラーの業務を担当していましたが、他の職員は区画整理や湛水被害の解消、水質改善など、個々に担当を持っていました。
宮古では、区画整理やスプリンクラー設置といった大型工事を、大人数のチームで一斉に進めることが多いようです。このようなチームで何かを進めていく職場の雰囲気を体験してみたいです。
ー事務所によっても仕事の進め方や雰囲気が異なるのですね。
眞榮平:はい。例えば、南部圏域でも南大東島では、必要な整備がまだ3分の1しか進んでおらず、完了まで50年という大型計画です。一方、久米島は既に整備が進んでいて老朽化対策として再整備が必要ですし、糸満やうるま市では国営地下ダムの有効活用についての検討会が開催されています。県域が広いため、地域ごとに整備の方針も全く異なり、様々な考え方を見ることができますよ。
ー最後に、求職者の方にメッセージをお願いします。
眞榮平:沖縄県の農業土木という職種は、区画整理や大規模な整備計画、工事を担当できる点が魅力です。農業が盛んな離島の振興を下支えする業務は、難しい面もありますが、実際に進めていったときのやりがいは大きいです。
ーありがとうございました。