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「生まれ育った街を良くしたい」建築士の視点で描く、夢咲くら館と佐倉市の未来

「公務員はクリエイティブな仕事」。そう語る榊田さんは、元設計事務所勤務の建築士という経歴を持つ、佐倉市役所の職員です。生まれ故郷を良くしたいとの思いから、佐倉市役所へ転職しました。

図書館を中心とした複合施設「夢咲くら館」の建設や学校施設の整備など、様々なプロジェクトに携わる榊田さん。夢咲くら館の建設エピソードやまちづくりへの情熱、公務員という仕事の面白さ、やりがいを語ります。

―まずは自己紹介をお願いします。

榊田:入庁前は設計事務所に8年間勤務しました。オフィスビルやマンション、図書館、商業ビル、学校など、多岐にわたる建物の設計に携わり、福島県の須賀川市民交流センター (tette)など、全国各地のプロジェクトを担当しました。

平成27年に佐倉市に入庁後、施設保全課(平成27年から令和2年までの名称:資産管理経営室)で7年勤務後、教育総務課に令和4年に異動し、現在に至ります。

―市役所で働く前は、設計事務所にお勤めだったとのことですが、転職のきっかけは何だったのでしょうか?

榊田:子どもが生まれたのを機に、生まれ故郷の佐倉市に戻って家族との時間を大切にしたいと思い、転職を意識し始めました。設計事務所の仕事はやりがいがある一方で、忙しくて家族と過ごす時間がなかなか取れませんでした。

また、佐倉市で生活する中で、この街をもっと良くしたいという気持ちが芽生えてきたのも、転職を考えた理由の一つです。そこで、まちづくりに詳しい方に相談してみることにしました。

―どのような方に相談に行かれたのですか?

榊田:学生時代に神奈川県の真鶴町でまちづくりの手伝いをしていた時に出会った公務員の方です。まちづくりをしたいと相談すると、「公務員になってもいいんじゃない?」と言われ、「その選択肢もあるな!」と思い、公務員を選びました。

元々私の公務員に対する印象がとても良かったことに加え、その方のまちを良くしたいという熱い気持ちが魅力的だったことも公務員を選択した理由です。今でも当時の繋がりがあり、真鶴まで行き、お酒を飲んで家に泊めてもらうくらい仲が良いです。

―その方のアドバイスがきっかけで公務員を目指されたのですね。転職活動はどのように行いましたか?

榊田:筆記試験はほとんど勉強しませんでした。専門試験は、仕事の延長線のような問題だったのでスムーズに解答できました。ただ、一般教養は歯が立ちませんでしたね(笑)。

面接では、自分の言葉で佐倉市に対する思いを率直に伝えることを心がけました。例えば、近所の公共施設を具体的に改善するアイデアを提案したり、「他の誰よりも豊富な経験と知識があるので、必ず市に貢献できる」とアピールしました。自分自身を売り込む営業活動といったイメージで面接しました。

―入庁後、どのような仕事を担当しましたか?

榊田:まず、施設保全課(当時の名称:資産管理経営室)に配属され、工事の発注や設計など建築営繕関係の業務や、「夢咲くら館」という、図書館を中心とした複合施設の建設プロジェクトに携わりました。その後、教育総務課に異動し、現在に至ります。

「夢咲くら館」のプロジェクトは、「私が担当したい」と手を挙げ、約5年間、計画から完成の1年前まで担当しました。設計の過程では、設計事務所と一緒にワークショップを行いながら、どんな施設にするか、どんな機能や要素を入れるのか検討を重ねました。

―「夢咲くら館」の設計で、特にこだわったポイントはどこでしょうか?

榊田:夢咲くら館は、図書館だけでなく、子育て交流センター、市史編さんスペース、カフェなど、様々な用途の施設が入った複合施設です。そこで私は、用途が分断されず、それぞれの機能が「融合」するような施設を目指しました。

この「融合」というキーワードは、前職で担当した須賀川市民交流センターでのワークショップを通して、「学びたい」「知りたい」「遊びたい」といった様々なニーズがあることに気づき、それらのニーズを用途に縛られない空間で満たせる複合施設が必要だと感じました。夢咲くら館では、その経験を生かし設計を進めることにしました。

例えば、図書館機能や子育て支援機能など、機能ごとに別々に考えてしまうと、利用者の多様なニーズに応えきれません。そこで、施設保全課、産業振興課、子育て支援課、図書館、社会教育課など、関係する部署から担当者を選出し、プロジェクトチームを立ち上げました。

これは、部署ごとに検討してしまうと、どうしても自分の部署のことだけを考えてしまい、全体にとって最適な道筋を見出すのが難しくなるからです。同じチームとして、同じ目線で話し合うことで、機能が融合するような施設が作れると考えました。

また、このチームで「アフターコロナにおける公共空間はどうなるのか」というテーマでディスカッションし、社会実験を行いました。印旛沼沿いに移動図書館がきて、その場で販売されているパンを食べながら本を読む日常をつくるという社会実験を通して、新しい公共空間の可能性を探りました。これは、プロジェクトチームだからこそできたことだと思います。

―教育総務課では、どのような仕事をしているのでしょうか?

榊田:教育総務課では、市内の幼稚園、小学校、中学校の施設の維持管理を行っています。現地に赴き、必要な修繕や工事などを業者に発注したり、大規模な改修が必要な場合は予算を確保して施設保全課に依頼したりしています。現在は、小中学校トイレの洋式化を進めています。

また、佐倉市のこれからの学校のあり方について、学校の適正規模、適正配置、学校教育などを検討し、子どもたちにとってより良い教育環境を提供できるよう、将来像を模索しています。私はそのうちのハード部分を担当しています。

―お仕事の中で、特に印象に残っていることは何ですか?

榊田:夢咲くら館の建設ですね。夢咲くら館が完成し、子どもを連れて行った時に「お父さんが作った建物だ!」と喜んでくれたこと、そして、多くの利用者が楽しそうに過ごしている姿を見た時に、本当にやってよかったと思いました。

子どもたちが思いもよらない場所で本を読んだり、学生がデッキで勉強していたり、自由な発想で施設を利用している様子に、新しい発見があります。私たちが想定していなかった使い方を目にすることも多く、行くたびに驚かされます。

―市役所のお仕事の面白い点や、やりがいについてお聞かせください。

榊田:生まれ育った故郷で、自分が手掛けたものを形にし、子どもと一緒に完成した施設を見たり、利用できることです。

あとは、実際に完成した図書館の館長さんから話を聞いたり、子どもが学校の授業で夢咲くら館を利用した感想を伝えてくれたり、友人や知人から感想を聞くことで、自分が担当した施設の使い勝手や反応がダイレクトに伝わってくるのが楽しいですね。

設計事務所にいた頃は、大きな建物を扱うことが多く、利用者の反応を直接知る機会があまりありませんでしたので。

―お仕事の中で大変だった場面についてお聞かせください。

榊田:夢咲くら館の仕事は、市民の期待に応えなければいけないというプレッシャーが本当に大きくて大変でした。

市としても重要なプロジェクトだったので、「良い図書館を作ってほしい」「街が活性化するような施設を作ってほしい」という市民からの期待があり、ワークショップでは、皆さんの思いを形にしなければいけないという責任やプレッシャーを感じました。辛いこともありましたが、やりがいもあり、全力で取り組むことができました。

―プレッシャーは、どのように乗り越えたのでしょうか?

榊田:チーム内で相談したり、設計事務所の方と悩みを共有したり相談したりしました。私も設計事務所出身で彼らの気持ちが良く理解できたので、お互いに話しやすかったんだと思います。

また、須賀川市民交流センターをはじめとする図書館を見学して、職員の方々に話を聞いたりしました。図書館がどのようにして作られ、良い点や苦労した点などを聞くことで、「自分だけが大変じゃないんだ」と思えたり、「こんなに街が良くなるんだったら頑張ろう」という気持ちになれたのは大きかったです。

―これまでの経験で、市役所でのお仕事につながっていることは何でしょうか?

榊田:まちづくりについてもっと深く学びたいと思い、プライベートで「都市経営プロフェッショナルスクール」に通った経験が、大きく役立っています。

このスクールでは「まずは実践しなさい。実践してから反省し、次に活かしなさい」という教えがありました。以前は、綿密な計画を立ててから実行に移すことが仕事のやり方だと思っていましたが、スクールでの学びを通じて、まずは実践することの重要性を学びました。

先ほどお話した移動図書館の社会実験は、「今この時期にやらなければ意味がない」という思いで、企画してから約1か月で開催しました。スクールでの学びが活かされたと思います。

―前職と、市役所で特に違うと感じるところを教えてください。

榊田:一番大きな違いは、建物の関わり方ですね。設計事務所では担当した建物が完成すればあまり関わることがなくなりますが、市役所では、自分が担当した建物にずっと関わっていくことになります。部署を異動しても、その建物への関わりは続きますし、実際に利用者としても使うこともあり、建物への思い入れや責任はより強く感じます。

―前職と、市役所で似ていると感じるところを教えてください。

榊田:設計するという仕事自体は、あまり変わらないと感じています。私は建築職なので、工事発注や現場監理など、設計事務所での経験が活きています。

―今後携わってみたい仕事はありますか?

榊田:公民連携によるまちづくりに携わりたいと思っています。佐倉市が抱える地域経営課題について、パブリックマインドをもつ民間の方々からの事業提案を受けて、公共施設・公共空間を活用しながら、より良いまちに佐倉を変えていきたいと考えています。

近年、全国的にも公民連携まちづくりを行う自治体が増えています。行政だけでは得られないアイデアや収益力には驚かされますし、とても面白く、やりがいを感じます。

―佐倉市は、榊田さんから見てどのような街ですか?

榊田:佐倉市は歴史があり、自然が豊かで、新しい街並みもあり、多様性に富んだ面白い街です。街を歩いたり、車で移動したりするたびに、新しい発見があって楽しいですね。街が多様なので、そこに住む人も多様で、様々な出会いや刺激があります。

―最後に、就職活動中の方や転職活動中の方にメッセージをお願いします。

榊田:私が尊敬する公務員の方に、「公務員はクリエイティブな仕事」と言われたことがあります。民間企業では、ある程度会社ができる範囲が決まっていますが、公務員はできる範囲を自分たちで広げていくことができます。

例えば、条例を変えたり、新しい事業を立ち上げたり、様々な可能性があり、そこにクリエイティブな面を感じます。 公務員というと、「決められたことしかできない」というイメージがあるかもしれませんが、実際は自分次第で、様々なことに挑戦できます。街や社会をより良くしたいと考えている人には、仕事の幅が広く、面白くすることもできるので、ぜひ公務員という選択肢も考えてみてほしいです。

―ありがとうございました。

この記事は2024年11月11日にパブリックコネクトに掲載された記事です。

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