一緒に遊び、支える!子どもと保護者が安心できる居場所作り~東京都世田谷区~
東京都世田谷区は、子どもの健全な成育や子育て家庭の支援を目的とした、学童クラブ(放課後児童健全育成事業)とBOP(放課後子供教室)とを統合した、区独自の事業「新BOP」を運営しています。
今回、世田谷区児童課の正規職員として働く橋本和幸さんと、芦花小新BOPの指導員として働く清水美奈さんにお話を伺いました。
—これまでのご経歴を教えてください。
橋本:もともとは教師を目指していて、大学の教育学部で学んでいました。でも、本当に自分がやりたいことを考えた時、子どもの学力を上げる授業を行うよりも、子どもの助けになる福祉の立場で働くほうが自分の理想に近いのではないかと思うようになったんです。
そんな時に知ったのが、「新BOP(ボップ)」でした。子どもたちの居場所を作る仕事はおもしろそうだと思い、学生時代に新BOPのプレイングパートナーとして子どもたちと遊ぶアルバイトをするように。
そして、卒業後は立場を変えて新BOPの指導員として働くようになりました。2年間勤務したのち、今年度からは新BOPで正規職員として勤務しています。
清水:私も学生時代にプレイングパートナー(アルバイト)を3年間していました。当時、子どもに一番関わるポジションで働いていたこともあり、私と遊んで楽しかったと言ってくれるのが嬉しくて。将来は私のような学童の先生になりたいと言ってくれる子もいて、この仕事に魅力を感じました。
就職先が決まっていたのですが、新BOPでのアルバイト経験が大きくて、このまま就職してもいいのかと迷いました。一緒に働いていた友人から「あなたは絶対にこの仕事をしたほうがいい」と後押しをしてもらい、企業の内定を辞退。
大学卒業後は新BOPの指導員として働くようになり、今年で19年目です。これまでに4つの学校でBOPを経験し、今は芦花小新BOPで働いています。
—新BOPについても教えていただけますか。
橋本:もともと、Base of playingの頭文字を取った「BOP」と言う、放課後に児童の保護育成を行う事業がありました。簡単に言うと、子どもたちに自由な遊び場を提供する場です。「新BOP」は、「BOP」に学童クラブの機能を加えた新事業です。
新BOPは学校に併設されているのが特徴です。我々は芦花小学校に併設するので芦花小新BOPと呼んでいます。学校での授業を終えた子どもたちがやって来て、同じ学校の友達と遊ぶことができます。学童クラブは主に1年生から3年生が対象ですが、BOPは1年生から6年生まで利用可能です。
子どもたちが学級や学年などの枠組みを超えた交流ができるだけでなく、世田谷区の共働き世帯を支えるための取り組みにもなっていると思います。
新BOPの利用率は高く、中には7〜8割の児童が学童クラブに在籍している学校もあります。以前勤務していた武蔵丘小新BOPではクラスの半分が在籍しており、我々が現在勤務している芦花小新BOPは260名ほどが在籍しています。
—新BOP指導員のお仕事内容を教えてください。
清水:新BOP指導員の勤務時間は12時20分から18時20分までです。新BOPには時間延長制度もあり、延長の担当になった場合は13時5分から19時5分まで勤務します。土曜日に出勤する場合は、平日にお休みを取ることが可能です。
出勤後はお掃除をしてから、ミーティングを行います。ミーティングでは、児童指導や事務局長を交えて情報を共有。その後準備を行い、14時半ごろから授業が終わった子どもたちを受け入れます。
橋本:子どもを迎えてからは、子どもたちが遊ぶのを見守るのが仕事です。例えば、他の子に混ざって遊べない子どもがいたら、みんなと遊べるように手助けします。
他にも、騒がしい所で1人で過ごすのが苦手だったり、気持ちの切り替えが苦手といったように支援が必要なお子さんもいまして。そういったお子さんには指導員が付き添い、一緒に遊んだり生活の支援を行っています。
学童クラブに在籍している子どもは、自由遊びやおやつ、学習の時間などおおまかに1日の流れが決まっています。ただ、指導員が勉強を教えることはありません。
新BOPでは、遊んだり勉強したりといろんな過ごし方をしている子どもがいるので、みんなが過ごしやすいよう、過ごし方によって部屋を分けたり、仕切りを設けたりと工夫をしています。
子どもたちの帰宅時間は保護者からあらかじめシステムで連絡を受けており、帰る時間を子どもたちに声かけしています。日が暮れた後に帰宅する子が多いので、安全のためにも子どもたちの気持ちを落ち着けてから家に帰しています。
帰宅前の時間は宿題に取り組んだり、読書の時間に。外で思い切り遊んできた子どもたちでも、高ぶった気持ちを落ち着けてから帰ることができるというわけです。
—新BOPの組織編制や、勤務体制について教えてください。
橋本:事務局長が1名、常勤職員が3名というのが基本です。加えて12名の指導員さんが在籍しています。土曜日勤務の振替で休まれる方もいるので、普段は10名前後の指導員さんとプレイングパートナーさんが勤務し、だいたい10〜15名の職員が子どもの支援をしています。
新BOPに来る子どもの数は日によって違うのですが、芦花小新BOPではだいたい1日に200名ほどの児童が利用しています。
清水:芦花小学校は世田谷区の中でも規模が大きく、新BOPを利用する児童が多いんです。私が前に勤務していた新BOPは、職員の数も利用する児童の数ももっと少なかったんですよ。ですから、芦花小学校に異動になる際は、規模の違いが不安でした。
でも、児童指導の職員に「人数の多さは関係ないから、今まで通りでいい。これまでに経験したことは、大規模校でも活かせるよ」と励ましていただいたんです。
異動してから実感したのですが、指導員は同じ信念を持って働いています。ですから、規模の大小は関係ないとわかりました。
—正規職員と指導員に違いはありますか?また、協力体制や役割分担について教えてください。
橋本:正規職員と指導員では役割が異なり、正規職員は学校や児童館との橋渡しの役割を担っています。対して指導員は、子どもたち全体を見守る司令塔のような役割です。
子どもの帰宅時間の管理やアレルギー対応など、子どもの命にも関わる大切な部分を見落とさないように働いています。プレイングパートナーは子どもたちの遊びのパートナー。子どもたちにとって一番近い存在ですね。
新BOPは学校とも連携していますから、正規職員は学校との打ち合わせを月に1回行っています。
例を挙げると、子どもの様子の情報共有です。担任の先生や校長先生、副校長先生と連携し、いろんな大人の目から子どもを見守っています。
—どのような働き方をされていますか?
清水:新BOPでの仕事が午後からなので、午前中は他のアルバイトをしてダブルワークをしています。新BOPでは基本的に残業はありません。休みを取る時は運営に支障がないよう、正規職員の方と話し合って決めています。
指導員として働いているのは主婦の方が多く、私のようにダブルワークをしている方も珍しくありません。私は午前中に接客業をしているのですが、そちらの仕事も楽しくて。指導員の仕事とは職種が異なるものの、通じる部分もあるんですよ。
橋本:私は正規職員なので、9時35分から18時20分までが勤務時間です。終業時刻は指導員さんと同じですが、勤務時間は世田谷区役所職員と同じ長さです。
—お仕事のやりがいについて教えてください。
清水:新BOPでは、とにかく毎日違うことが起こるんです。予想できないことばかりなのですが、大変というよりもおもしろくて。子どもが何かを初めてできるようになったというシーンに立ち会えることも多いので、それが私の喜びにもなっています。
また、私の何気ない手助けを子どもがとても感謝して、お手紙を書いてくれることもあるんです。私にとってのごほうびになっています。
—キャリアアップについて教えてください。
橋本:先ほどもお話したように、私はプレイングパートナーとして新BOPに入り、指導員を経て正規職員になりました。学生時代から新BOPで働く方々を見てきたので、キャリアアップを目指すとしたら正規職員の道を目指したほうがいいのではないかと思ったんです。
それで、世田谷区の公務員採用試験を受けて正規職員になりました。教員免許を持っていたり、指導員として新BOPで働いた経験が3年以上あれば、福祉職の正規職員の試験が受けられるんです。
指導員としての経験は正規職員になってからも活かせますし、働きながらステップアップできるので、やりがいがあると思います。
正規職員になったことで異動の可能性もあります。異動先の候補は別の新BOPや児童館が挙げられます。ゆくゆくは児童館の館長職も目指してみたいですね。
清水:私は、子どもや保護者にとって身近な存在でいたいんです。ですから、このまま指導員として働くのが私にとってはベスト。体力が続く限り、指導員として働き続けたいです。
—新BOPの指導員に必要な資格や経験はありますか?
橋本:新BOPの指導員は、雇用区分によって教員免許など資格が必要な場合はございます。ただ、資格よりも子どもに寄り添う心を持っていることのほうが大切ですね。
学生アルバイトや主婦の方のほか、教員経験者が指導員になったり、企業を定年退職された方がプレイングパートナーとして再就職されることもあります。いろんな大人の目線から子どもたちを見ることができるのが新BOPの魅力です。
清水:いろんなバックグラウンドを持つ方が働いているので、子どもへの指導の仕方などお互いに学べるのがおもしろいですね。私自身は、これといったスキルはないのですが、とにかく子どもが好きでかわいいという思いを持って働いています。あとは、子どもを引き付けるトーク力ですかね。
今の時代は共働きの保護者がとても多く、土曜日もBOPを利用する子どももいます。ひょっとしたら、子どもたちは新BOPに行きたくない日もあるかもしれません。
そんな子どもたちに対して、我々が何ができるかを常に考えることが必要です。新BOPが子どもたちにとって居心地のいい場所であり、保護者の方にとって安心して子どもを預けられる場所にしたいです。
ーありがとうございました!