誰かの人生に深く関わる仕事~大変だけどやりがいも大きい、心理職としての働き方~
「行政心理職」と聞いて、皆さんはその業務を想像できますでしょうか?
今回は相模原市で心理職として働く中山さんと坂西さんに、心理職としての業務やそのやりがいについて教えていただきました。
市役所の職員として誰かの人生に深く関わることの大変さや、そのやりがいが伝わる内容となっています。
ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。
中山:神奈川県の出身で、大学と大学院で心理学を専攻していました。大学院を卒業後、県の児童相談所や東京の児童養護施設のほか、大学での相談員等の経験を経て、平成29年度に相模原市役所に入庁しました。現在は心理職として児童相談所相談支援課南心理班に勤務しています。
坂西:私は埼玉県の出身で、大学と大学院で臨床心理学を専攻していました。大学院にいるときから県内の児童相談所に非常勤職員として勤めていましたが、大学院を卒業後、相模原市を含めいくつかの児童相談所の非常勤職員を掛け持ちしつつ、平成24年度に相模原市役所に入庁しました。現在は中山さんと同様に心理職として中央子育て支援センター療育相談班に勤務しています。
ー心理学を学ぼうと思ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
坂西:母が国立のリハビリテーションセンターに勤めていた時期があり、その際に心理職という仕事を知り、興味をもちました。心理学の中でも、特にその方の状態を知るための心理検査についてより興味があり、大学では心理学を専攻しました。
中山:私は中高生の頃、メディアで取り上げられていた事件をきっかけに少年犯罪や犯罪心理学というものに興味を持ちました。最終的に犯罪心理学を専攻したわけではないのですが、心理学そのものには興味があったため、大学及び大学院で臨床心理学を専攻しました。
ー相模原市を志望した理由について教えてください。
坂西:実は、私は場所で決めたというよりも児童相談所で働くということを優先して考えていました。大学院を卒業するタイミングで児童相談所の求人を探していたところ、相模原市で非常勤職員の求人を見つけ、実家からも通勤圏内であったことから非常勤職員として働き始めました、その後、正規職員も募集するということを知り、正規職員の試験を受験しました。
実際のところ、相模原市がどういう街なのかということは、働き始めてから知りました(笑)
中山:私は県の児童相談所で非常勤職員として勤めていたため、その時の縁もあり相模原市で募集があるということを知りました。県で正規職員になるということは少々厳しかったため、相模原市で正規職員の募集をしていることは魅力に感じました。
ー民間企業といった選択肢もあったのでしょうか?
坂西:民間の医療機関でも心理職の募集というものはありますが、心理職として働く場合は「自治体か民間か」ではなく、心理職としてやりたいことによってどちらで働くのか決まってくるのではないかと思います。
民間には児童相談所が無いため、児童相談所の職務に携わりたいのであれば自治体、精神疾患のケアといった医療的な部分で関わりたいのであれば民間の医療機関、といった考え方です。
ー具体的に自治体の「心理職」とはどういった業務をしているのでしょうか?
中山:私が勤務している児童相談所では、子どもにかかわる問題や悩みを抱えている保護者や本人(子ども)に対して、面接や心理検査を通じて状況改善に向かうための支援をしています。保護者や子ども自身から直接相談を受けることもあれば、近所や所属機関から虐待の通報などを受け相談に至るケースもあります。
私たち心理職は、子どもと面接して心理状態や状況を把握し、問題の原因分析と解決策について検討を行ないます。継続的な支援が必要なケースが多く、面接を継続して状況を把握したり、子どもの変化や成長を促すような関わりをしたりします。また、ケースワーカーと連携し、保護者との面接内容や子どもの状況を共有し、子どもにとって最善の解決策を探ることもあります。
子どもの現在の状態を丁寧に把握し、今後の支援の方向性を検討し、状況に応じて関係機関と連携して適切な支援を提供することもあります。専門的な知識と技術を活かして、子どもの心理状態を深く理解し、行動や感情の背景にある心理的な要因を分析し、子どもの発達段階や状況に合わせた支援方法を提案することで、虐待などの困難な状況にある子どもや保護者に対して、子どもが安全で健やかな成長を遂げられるようサポートします。
坂西:私は現在療育相談を担当しているため、児童相談所とは異なり相談の内容はもう少しピンポイントにとなります。療育相談とは、子どもの発達について相談したい保護者が訪れる場所です。ここでは、専門的な検査や行動観察を通じてお子さんの発達状況を見立て、その後の療育につなげるための支援を行います。短期的に療育を体験する初期療育サロンや、制度利用のサポートなどを行っています。心理職は、検査や行動観察からわかったお子さんの発達状況を保護者に伝え、お子さんや療育に対する理解を深め、必要な支援へと導く役割を担っています。
療育相談に来られる保護者の方々は、お子さんの発達について悩みを抱えており、漠然とした不安を感じています。心理職の役割は、専門的な視点からお子さんの状態を丁寧にアセスメントし、保護者の方々が感じているモヤモヤとしたものを具体的な言葉で明確にすることだと思っています。
私たちとの相談を通じ、保護者の方々は、お子さんの発達について客観的な視点を得て、理解を深めることができます。それは、お子さんの特性をただ「受け入れる」というよりも、まずは得意なことや苦手なことを「理解する」ことから始まるプロセスです。そして、その理解を基に、お子さんの発達状況に合わせた接し方や、今後必要な環境について考えていくための支援をしています。
中山:心理職の業務として共通していることとしては、相談に来る方が何か目的や要望があって来る方ではなく、困っていて助けを求める状態で来ているというケースが主だということですね。
ー児童やその家族を守るためにとても大事であり、且つとても大変な業務ですね。心理職として働くやりがいについても教えていただけますか?
中山:私たちの仕事は、保護者にとっても、子どもにとっても、人生に関わる大切な仕事だと思っています。相談に来る方にとっては、相談するだけでもハードルが高いと思いますし、虐待に関しては命に関わるケースも少なくありません。
もちろん必ずしもうまくいくケースばかりではありませんが、相談していただくことによって少しでもいい方向に進んでいくこと、これが何よりやりがいだと思っています。
坂西:療育相談に関しても、保護者の方にお子さんについて知っていただくことで、その家庭の関係性や生活が少しでも良い方向に向かうこと、そして制度支援や初期療育を活用して前向きな話ができるようになると、やっていてよかったなと感じることができますね。
相談相手もとても大変な思いをしていて、それを支える業務だからこそ、少しの変化でも喜びややりがいを感じることができるのだと思っています。
ー行政心理職と聞くと、一般的には中々業務内容がイメージできないかと思いますが、お二人は元々持っていたイメージや実際に働いて感じたギャップなどは有りますか?
中山:児童相談所で働く明確なイメージは持っていなかったというのが正直なところで、イメージとのギャップという面ではあまり感じることはありませんでした。
ただ、児童相談所の心理職の仕事は、学校で学んだような型にはまった方法では進まないことが多いと思いました。毎週決まった時間に面接を行うといった理想的な形で進められることは本当に稀で、月に1回面接できれば良い方だということもあります。とにかく、柔軟な対応が求められる仕事なんだと思いましたね。ただ、そのような中でも心理職として大事にしたいことは根底に持っていないといけないとも思います。
坂西:私は心理職の仕事というと、基本的には相手と1対1で進めるものだと思っていました。しかしながら、実際は相談に対してはとても多くの職種や組織、関係機関との連携が必要となります。心理職としてのスキルだけでなく、関係者とのつながりやコミュニケーションもとても重要だと感じています。
ーお二人は実際に心理職として働いてみて、どういう人が心理職に向いていると思いますか?
坂西:心理職の資格には、いくつかの資格があるのですが、心理職はまだ発展途上の分野であるため、資格を取ったら終わりではなく、日々自己研鑽が必要となります。特に臨床心理士という資格は5年ごとの資格更新が必要で、研修への参加などが前提となっているので、継続的な学習意欲と自己研鑽能力が不可欠となります。
そのため、日々学び、成長し続けることができる方が、心理職には向いていると思います。
中山:坂西さんが言われたとおりで、心理職は常に学んでいく仕事です。働き始めてすぐに完璧である必要はなく、自分を良く見せようとしてしまうとなかなか成長できません。自分が出来ていない点についてはしっかりと受け入れ、それをまた次の学びに繋げられるような人は心理職としてもより成長できると思います。
また、児童相談所に来て思うのは、何より「子どものため」と考えることが大切だということです。様々なケースがある中で、私たち心理職の人間だけが子どもの味方になるということもあります。そんな子どもに、まずは寄り添える方だといいと思いますね。
坂西:相手の気持ちをどれだけ想像できるかという、想像力豊かであることも良い心理職の条件だと思います。子どもと話していると、親から暴力を受けている、友達に無視されている、学校に行くことができないなど、様々なケースに遭遇します。そんな中でも、この子はそのことについてどう感じているのか、相手の気持ちに深く寄り添った支援をすることがとても大切だと感じます。
ー最後に、お二人から求職者の方にメッセージをお願いします!
中山:時代の流れもあり、ここ最近児童相談所の職員数は増えつつあり、若い人も沢山入ってきています。そのため、研修制度などもよく考えられていて、種類も豊富です。
専門職としての研修機会が多いということは、成長につながるとてもいい環境だと思いますよ!
坂西:相模原市は心理職や療育といった分野で比較的進んでいる方だと思います。政令指定都市というと、大きな組織というイメージがあるかもしれませんが、政令指定都市の中ではまだまだ小さい部類に入る自治体です。そのため、心理職同士の距離が近く、何でも話しやすい環境です。
また、相模原市は自治体としても心理職の働く場所としても今まさに発展しつつあります。心理職の業務をどのようにして確立していくのか、どのようにしてより成長させていくのかを真剣に考えているところで、とても大切な局面でもあります。
是非、心理職としての職場を一緒に作り上げて行けたらいいなと思います!
ー本日はありがとうございました。