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周防大島町保健師が語る、住民とともに歩む健康づくりの軌跡とやりがい

周防大島町役場で保健師として30年近く住民の健康を支えてきた行田さん。看護師から保健師へと転身したきっかけ、そして周防大島を選んだ理由とは?

住民との距離が近いからこそできるきめ細やかな保健活動、地域を巻き込んだ「ちょび塩(減塩)」運動など、ユニークな取り組みと成果について詳しく伺いました。

保健師の仕事の魅力、そして周防大島という町の魅力についても語っていただきました。

―ご経歴を教えて下さい。

行田:看護学校卒業後、保健師の資格を取り、平成5年に合併前の旧東和町に入庁しました。その後結婚を機に1度退職し、平成10年にまた旧橘町で再度保健師として働き始め、平成16年に4町が合併し周防大島町になり、今に至ります。

もともと、看護師を目指していたのですが、学生時代の地域実習として小さな山村に参加させていただいたときに、「こういった世界があるんだ、地域って面白いな」と初めて体感したんです。そこで進路を改めて考え直して、地域で働こうと思って保健師の資格をとりました。

なんとなく、気軽な気持ちがきっかけだったのですが、縁があってこうして周防大島で保健師活動をさせてもらって、本当に楽しいですし、保健師になって良かったな、良い出会いだったなと感じています。

―なぜ周防大島だったのですか?

行田:学校が山口県内で、田舎の地域を選ぶつもりで旧東和町に就職しました。元々愛媛県の出身で、愛媛と周防大島とは船で約1時間と繋がっているという縁もあります。

―周防大島町の保健師の体制について教えてください。

行田:現在9名の保健師が在籍しています。健康増進課に5名、介護保険課に4名が所属し、担当分野で分かれていますが、連携して活動しています。

この日良居庁舎内にフロアを分けて、介護保険課と健康増進課が隣り合わせでいる形です。周防大島町役場は庁舎自体も分庁方式ですので、この庁舎には健康福祉や介護の分野の課が集まっています。

―どのような経歴を渡り歩いてきたのですか?

行田:合併前は地区担当もなく全ての事業を担当していました。合併後はまず保健センターで子供からお年寄りまでの対応と、地域包括支援センターのサブセンターとして介護保険を担当しました。

その後健康増進課に戻りまして、母子保健や成人保健を経て、精神保健を担当しました。

この4月からは、その精神保健とあわせて、母子保健も15年ぶりに担当しています。子育て世代包括支援センターOhana(オハナ)の事業運営業務を行い、さらに地区の分担も受け持っています。

―地区ですとどの程度の人数を担当しているのですか?

行田:地区ごとのボリューム増減はありますが、周防大島自体の人口が約13,000人で、それを4人の保健師で大体4分の1ずつ担当しているイメージです。

ただ、目が行き届かない場合もあるので、各事業の担当との連動や、地域団体、自治会長、我々が育成している食生活改善推進員など、地域で役を担ってくれてる方々の協力を得ながら進めることを非常に大切にしています。

いろんな場面で偶然出会う人々、そういった人に積極的にお声がけをしていったり、そこで聞いた話を保健師同士で情報交換したりと、通常の業務から一歩枠を超えたところにアンテナを張りつづけることも重要です。

―それだけ普段の声かけも大事にしているんですね。

行田:ありがたいことに、小さな町だからこそ保健師自体が認知されてもいます。子どもたちにもこの服を着ていると「健康づくりの人が来た」 と言われますし、面識のない方々にも声をかけてもらうこともあるんです。

私たち保健師は、1人1人を大事にしながらまちづくりをしていると思っています。このようにできているのも、健康や介護をキーワードにいろんな人と繋がられる周防大島の体制を歴代の大先輩方が築いてくれたからですね。

―周防大島町では、ずっと推進している健康づくり活動もあるんですよね。

行田:周防大島は、高齢化が55%ほどで健康で長寿な島に見えるんですが、医療保健統計を見ると実は健康寿命が県内でもワーストに近いんです。その要因として心臓病、脳梗塞などの循環器疾患があり、循環器病対策に取り組む運動を15年前から始めています。

まず食事調査から塩分過多であることがわかったので、減塩からの健康づくり、生活改善をしようという運動をはじめました。減塩というと美味しくないや食べ物が腐るなどのマイナスのイメージがあったので「ちょびっとの塩で美味しく食べて元気になろう」と、「ちょび塩」と名付けています。

名前を決めて、それが住民の目につくようにもしようと、我々保健師が着る、ちょび塩のポロシャツも作りました。ちょび塩のマークもつくって、生活の中にそういった活動を少しでも溶け込まそうとしています。例えばちょび塩ソングや、ちょび塩ダンスもあって地元の保育園児に教えにいってそこから親御さんへ広げていくことも行っています。

また、スーパーマーケットやコンビニエンスストアとも協力して減塩商品を売り出していくようなPRを行いました。そういった生活に根ざした人たちも巻き込んで、味方になってもらって一緒になってちょび塩活動を続けていったんですね。

1人1人の住民を虫の目で見て大事にしつつ、鳥の目で地域全体も眺めて人々の協力も得ていく、両方の役割が保健師の活動にあると思っています。

―どのようにして民間の協力を得ていくんですか?

行田:Win-Winの関係、善意だけでは協力体制は続かないと私達も肝に銘じてるので、商品のPR自体を一緒に行ったり、自分たちの事業の中でも使わせてもらったりと経済的なメリットは協力した事業者さんにもあるようにしています。

―実際にその活動は浸透はしていっているのですか?

行田:県内の山口健康マップという県民対象のアンケートで、減塩活動の周知やその効果などの認知度が最も高いのが周防大島だという結果が出ました。データでも、実感値としても浸透していっています。

しかし、健康づくりの難しさは「わかっちゃいるけどやめられない」という点であり、意識はあっても行動変容にまだうまく繋げられていないです。

さらに、目標は循環器疾患対策でその病気になる人を減らすということなので、減塩だけじゃなく血圧も下げていこうという運動も始めました。そこではお医者さんの協力も依頼しながら新たに取り組んでいっています。

―新たな事業は新人職員も担当されることはあるのですか?

行田:もちろんあります。保健師の数も限られているので、最初から事業を担当してプリセプターもつくので一緒に動かしてもらっています。もちろんプリセプター1人に任せず、課の皆で見ていって、新人職員さんが事業を動かしていくときの進捗状況の確認や課題の精査、提案などは行っていきます。

新人職員自身が、自分でやった事業だと愛着を持ち、手応えを感じたり悪かったときの反省をしたりと、次へつなげていくための活動は常に意識しています。

やはり、体験しないことには地域の情報も何もキャッチはできないです。まずは顔を覚えてもらうだけでもよいので、行ってみてやってみてもらう。そこでどうだったのかを反省し次またやってみようという繰り返しです。

ただ、そういった中でも新人職員ならではの気付きがあり、我々ベテラン職員でもわからなかった発見があるので、お互いに学びあって、刺激しあえている環境です。だからこそなるべく和やかな雰囲気で、新人からの意見も出せる環境にしています。

―お忙しさについてはいかがですか。

行田:やはり保健師の数は減ったということもあるので業務量は多いとは思います。しかし協力の体制はできていますし、重たい事業であってもみんなでよし頑張ろうと思える環境ですし、だからこそ乗り越えられています。

忙しいですが、その分やりがいはあります。やらされた仕事という忙しさはなく、本当に心から必要だとおもって、私にしかできない!という勢いで、取り組めていると思いますね。

私は、保健師ならではの地域に密着してやりがいのある仕事がまさに今できていると思っていますし、日々楽しいです。

そしてそのような活動に対して、例えば1人のお母さんから肩の荷が下りて育児ができましたと言ってもらえたりもします。実際に人の人生に携わることができる仕事で、自分が感動する体験もたくさんできているので、得な仕事だなと思えています。

―では、周防大島という町の魅力についても教えて下さい。

行田:正直言って夜は暗くて静かですし、不便な部分もあります。ただそれ以上に人々に支え合いの文化が残っていたり、なにもないからこそ新しいことを生み出せたりという面白さや魅力は沢山あると思います。

あとは、海と山、緑に囲まれて夜は星空満点で、旬のお野菜、お魚も美味しくて、都会では味わえない人間らしい豊かさが満載な町だなと思っています。私自身、こちらに住んで30年近くになりますが、毎日キラキラの海を見て「今日も綺麗だな」と感動しながら過ごせています。

―周防大島で保健師として働く魅力についても教えて下さい。

行田:例えば保健師活動として、大きいまちのほうがいろんな事業を動かして成果を挙げて、小さなまちだと事業自体も小さいんじゃないかというイメージを持たれると思うんです。ただ、周防大島は前に述べた通り高齢化率も高く、その分先進的な事業、モデル事業をはじめる現場にもなっているんですね。

先人の保健師たちからも地域の課題を捉えて新たな事業を行う体制はありましたし、大学や厚生労働省などいろんな連携の体制もあり、地域活動の最前線での新たな取組ができているんですね。

実際に、私達も日本公衆衛生学会とか高血圧学会などにも参加してそういった事業での研究発表も行なっています。そこで実際に学術奨励賞を受賞するなど、大きなまちに負けない有意義な楽しい活動を多くしているのが周防大島町なんです。

―ありがとうございました!

この記事は2024年8月8日にパブリックコネクトに掲載された記事です。

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