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イチから始めた里山保全、美味しいクラフトビールづくりが地域の力に~静岡県森町の地域おこし協力隊~

静岡県森町の「地域おこし協力隊」として、里山に関する活動に携わり今期で退任を予定している佐野 祥(さの しょう)さん、特産品開発を行う松葉 知香(まつば ちか)さん、担当職員である三浦さんに、現在行っている仕事内容や後任として入っていただきたい人物像についてを伺いました。

—自己紹介やこれまでのご経歴を簡単にお願いします。

佐野さん:私は、東京の大学を卒業後、伝統工芸の道に入ろうと決心し、沖縄県に移住しました。しばらくは機織りの織子として働きつつも、夫と2人で海外を回りながら様々な国の文化にふれるという生活を2年ほどしていました。

松葉さん:私は、出身地である愛知県から静岡県浜松市のデザイン系大学に進学し、大学院まで6年間通いました。卒業後は地元に戻り、プログラミング教室で講師として勤めていました。

でも、コロナ禍で退職者も多く、自分も本当にやりたいことを見つめ直すようになりました。

そこで、大学の授業で「地域おこし協力隊」について学んでいたことを思い出しました。学生時代から興味はありましたが、「やってみたいことをやるんだったら、今だな」と決心し、退職して現在の仕事に就きました。

—現在の具体的な業務内容をお聞かせください。

佐野さん:私は「地域資源を活用した里山の賑わい創出コーディネーター」として、棚田の再生活動など里山の保全とそれにちなんだ“賑わい”の創出、イベントやワークショップの企画に携わっています。

地域の方々を巻き込んで、地域の歴史ある建物で季節仕事の継承を楽しく学び、町外の方にも来てもらおうというのが企画の趣旨です。

ワークショップで実際に体験してもらったり、魅力を伝えたりすることで、今後も里山に足を運んでもらうための関係性づくりが業務のメインです。しかし、整備されていない里山に人を呼ぶことはできません。そのためにも、なくなりつつある里山の田んぼや畑、山林の保全が課題なんです。

松葉さん:私は「中山間地域活性化コーディネーター」として、特産品の開発に携わっています。前任の職員から引き継いだブルーベリーと和梨のクラフトビール開発や、森町の夏の特産品として有名なトウモロコシ「甘々娘(かんかんむすめ)」を使ったコーンスープ、冬に向けた和栗のビール、ジャムなどの商品企画・製造をジャンルレスに進めているところです。

そのほか、協力してくれるデザイナーと一緒に販促物やパッケージデザインなど大学で学んだことをいかせる作業をしたり、「地域おこし協力隊新聞」の作成といった広報的な仕事にも携わっています。

—地元の方々の協力を得ながら行った取り組みについて教えてください。

佐野さん:先日は、音楽会を開催しました。会場には、お寺を使用させていただいたのですが、住職さんにも快く受け入れていただき、さらには地元の環境保全に携わる団体や婦人会の方にお声がけして手伝っていただきました。

1人で企画・運営をするのは大変ですが、そのような地域の方々の支えもありながら進めています。

松葉さん:商品開発も地元の方々とコミュニケーションから始まることがあります。たとえば、トウモロコシ農家の方から余ったトウモロコシでなにかできないかな?という提案から、旬ではない冬場に売れるようスープに加工する特産品開発を行っています。

クラフトビールに使用するブルーベリーや和梨も、そういった経緯から活用することが決まったそうです。ただ、製造施設はないので、静岡県内の民間業者さんにご協力いただいています。

また、協力隊OBの方と地元の方々が主体となり、古民家をリノベーションして地域の寄り合い所として活用しよう!という動きもあります。協力隊として私もそのプロジェクトに参加させてもらっています。完成後は地域の方々に向けて開放し、いろいろな取り組みや特産品づくりができるようにしていければと思っています。

—お二人が協力体制をとりながら仕事を進めていくこともあるのでしょうか?

松葉さん:それぞれの専門分野で動きながら、イベントがあるときはお互いに協力するということはあります。リノベーション古民家で期間限定ですが一緒にブルーベリーかき氷の製造・提供もしました。

佐野さん:松葉さんと協力して仕事を進めるなかで、特産品開発も里山活性化に大きく関わる取り組みだと知ることができましたね。普段から「こんなものを作ったら楽しそうだね」と一緒に試作品を作ったりもしています。

また、森町の環境や農産物に詳しい町民の方を交えて定期的にお茶会を開催し、松葉さんとともに里山の暮らしや新しいアイデアなどを情報交換しています。

—森町で働くなかで、どんなところにやりがいを感じていますか?

佐野さん:移住したばかりの頃は縁もゆかりもない町で孤独を感じていました。

でも、顔見知りが増えて応援していただけることも多くなり、だんだんと森町にとけこんできていると思います。応援してくださる方は、こちらがなにをしても喜んでくれるんです。すると、やっぱり私自身も楽しいんですよね。

さらに、棚田をはじめとする自然環境も、保全活動をすることで目に見えてきれいになっています。自分の取り組みが、里山に還元されていくと嬉しいです。

松葉さん:特産品開発は、新聞社さんに足を運んでいただき、記事にしてもらうことも多かったんです。おかげさまで、当初から多くの方に認知していただきました。「こんなことやってるんだね」「買ったよ、応援してるよ」といった言葉を町の方々からかけていただくたびに、やっぱり良い仕事だな、と実感します。

また、佐野さんがお話されていたように、応援してくれる町の方は本当になにをしても喜んでくださるんです。小さな取り組みから大きな取り組みまで歓迎してもらえる、そんな懐の広さやあたたかさが森町の良いところですよね。

佐野さん:森町役場も「やりたいことはなんでもやれ」というスタンスなんです。

—新しい隊員としてはどんな方が良いと思われますか。

佐野さん:自分で仕事をマネジメントできる方が良いと思います。色々な意見を言う人もいますが、それでも自分のやりたいことに立ち返り、どうすればそのゴールに向かっていけるのか?を考えられることが重要だと思います。

松葉さん:“自分で物を作れる人”がいれば理想です。私自身は、食べ物を作ることは得意ではないので……フードコーディネーターのように企画段階で調理や試作ができる人に来ていただけるとありがたいです。

あとは、コミュニケーションがしっかりとれる方ですね。協力隊の仕事では、住民や役場など、多くの方々とのさまざまな交流があります。ある程度のコミュニケーション能力は必要であることは覚悟したうえで来ていただくと良いと思います。

三浦さん:現在は共同開発、委託生産という形で特産品づくりを行っています。今後は、新しい協力隊の働きのもと地域内で生産できる仕組みをつくり、パッケージやラベルのデザインは松葉さんが担当、という分業にしていきたいです。

だからといって、経験者や有資格者でなければならないというわけではありません。引き続き、外部の業者や行政との協力体制をとりながら特産品開発に携わり、できることを見つけてもらえればと思います。また、話し合いのなかで「今度はこういうことをやってみたいよね」というようなアイディアを生み、どんどんチャレンジしていってほしいです。

そして、地域おこし協力隊全体として考えたときに求めるのは、やはりコミュニケーションがとれる方とチャレンジ意欲のある方です。

WebサイトやSNSを活用した森町の魅力発信、PR活動ができる方もお待ちしています。森町のように自然豊かな場所で暮らしたいとお考えの方であればなお良いのかな、と思いますね。

—森町地域おこし協力隊の就業環境をお聞かせください。

三浦さん:活動は週5日です。イベントや地域の事情に応じて変則的な労働時間になることもありますので、そこは臨機応変に対応いただければと考えています。また、月2回定例会があり、月次報告や「来月はこういったことをやりたい」といった提案をしていただきます。

—選考過程はどのようになっているのでしょうか?

三浦さん:一次選考は書類で行います。履歴書とあわせて、森町を選んだ理由や森町でなにをしたいのか、といったことを記載した書類も提出していただきます。その後は、松葉さんも参加した2泊3日の「おためし地域おこし協力隊体験」にご参加いただき、協力隊の活動体験や地域住民との交流会を実施する予定です。

「おためし地域おこし協力隊」も選考の一環で、地域にしっかりととけこめる人材か、意欲はあるか、といったところの判断材料としています。森町がどのような地域なのか?というのもより伝わりますよね。お互いのミスマッチを防ぐためにも大切な選考過程だと考えています。そして、最終選考は面接を実施するという流れです。

「おためし地域おこし協力隊」に参加していただく際は、町内のゲストハウスに宿泊して体験をしてもらいます。日程については、事前に相談しながら決めていきたいと思います。

—実際に「おためし地域おこし協力隊」に参加されて、いかがでしたか?

松葉さん:私が参加したときが初めての試みだったそうですが、本当に濃厚でしたね。どんなところで、こういうものがあって、こんな人がいて……というのを限られた日程で濃密に見せてもらえましたし、ご近所さんも招いたお食事会にも参加させていただきました。

実は、森町以外の市町でも、「おためし地域おこし協力隊」に参加したことがあったんです。そこでは、町のさまざまな課題を見て回り、自分なら何ができるか?という発表をするようなワークショップがありました。森町の「おためし地域おこし協力隊」ではそういったものが全くなく、とにかくおもてなしの嵐で(笑)。

正直に言いますと、森町の「おためし地域おこし協力隊」は、実家から近いし、なんとなく行ってみようかな?という軽い気持ち参加したんです。けれど、いざ森町に訪れて活動体験をしてみると、「この人たちと、これから一緒にやっていくんだ」という将来の解像度が上がりましたね。

それに、やはり人同士は実際に会ってみないとわからないものですから。「おためし地域おこし協力隊」に参加し、町の方々と交流することで、町やそこで暮らす方々の良さにふれたことは移住の大きな決め手となりました。

—最後に三浦さんからも、森町地域おこし協力隊として働くことの魅力をお聞かせください。

三浦さん:「森町地域おこし協力隊」は、役場や地域住民のバックアップを受けながら、非常に柔軟な動きをすることができます。慣れない地域で、なにから始めればよいのかわからないことも多いかもしれません。ですが、なにか新しいことを見つけたときに自分の意思でチャレンジできるというところは、大きな魅力なのではないでしょうか。

—本日はありがとうございました。

この記事は2023年10月26日にパブリックコネクトに掲載された記事です。

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