「より良いふつう」へ。公共施設建築の意識をアップデート〜長崎県雲仙市・自治体の建築技術職としての役目〜
長崎県雲仙市の建設部建築課に勤める津田 晃平さん。前職のゼネコンでの働きや、地元雲仙市に戻るきっかけとなったエピソード、公共施設の建築に携わることの面白さと魅力についてお話を伺いました。
ー入庁までのご経歴についてお聞かせください。
津田:雲仙市出身で、熊本県の大学で建築学を学び、大学院卒業後はゼネコンの設計部に勤めました。
東京を中心に5年ほど働いていたのですが、前職は国内外の異動も多く、30歳を目安に九州へ戻ろうかなと漠然と考えていたこともあり、雲仙市への入庁を決めました。
熊本地震や家庭の事情なども転職理由の1つです。
ー九州へ戻る、ということで現地の同業種への転職は選択肢に入らなかったのでしょうか?
津田:建築関係の仕事を続けたいとは考えていましたが、第一線でバリバリ設計をするところからは一旦距離を置きたかったんです。
また、実家に帰って家業を継ぐことも考えていました。設計は複業でのWワークです。しかしそんな決意で帰省したところ、弟が一足早く帰ってきて社長になっていたことを知りました(笑)。
そんなときに、配偶者が翌日締切の雲仙市の求人をたまたま見つけてくれたんです。これはなにかのご縁だと感じ、その足で申し込みをしました。
ー当時は、公務員に対してどんなイメージをお持ちでしたか?
津田:学生時代の友人にも公務員になった人はいましたが、正直に言うとキラキラはしていないイメージでした。
実際に内定をいただいてから家族と改めて話し合う中で、前職に比べワークライフバランスがとれる公務員の働き方に魅力を感じるようになりました。
ー次に、現在のお仕事について詳しくお聞かせください。
津田:平成29年度に入庁し、建設部建築課に配属されて7年目です。建築技術職は異動が少なく、私と同じく民間企業出身の先輩で15年以上建築課に所属されている方もいらっしゃいます。
現在、技術職としては私を含めて正規職員が2名、再任用職員が1名という構成です。
業務内容としては公共施設の営繕がメインで、「こんな工事がしたい」という各課からの提案・要望を集約し技術職それぞれが個別で案件を担当する形です。基本的に、設計を民間の設計事務所に委託し、設計内容のチェック、調整を重ねて工事の目的に沿った設計を纏めます。次にその設計成果品を基に工事を発注し、完成まで管理するといった業務を担当します。
ー案件のベースは他課からのご依頼ということなので、連携する場面が多いのでしょうか?
津田:そうですね。こちらにお任せくださいというよりは、一緒に進めていく形です。「こんなふうに工事をしていくよ」という情報共有はもちろん、予算内でどのような工事をするか、原課と話し合いをしたうえで決めていきます。
ー特に楽しいと思ったお仕事や、印象に残ったお仕事などはありますか?
津田:やはり新築工事に携わるのは楽しいです。たとえば、老朽化した支所の建て替えに関して、近接する公民館施設と集約し一つの複合施設として作り変える計画の設計から工事まで携わりました。関係者の調整を行うプラットフォーム的な役割も担い、大きなやりがいを感じましたね。
現在は消防署の建て替え工事計画が進行中ですが、こちらも自分で立候補して担当していますし、全天候型の子ども遊戯施設の大規模改修にも手を上げています。
今後の人生設計を考えたときの大きな経験や勉強になりますし、やりたい案件をやらせていただける環境があり、任せていただける組織に感謝しています。
もちろん、既存施設の寿命を延ばしたり、安全で快適に利用できるよう改修する工事も疎かにはしません。すべての業務に全力で取り組んでいます。そのうえで、やりたいと思ったことはどんなに大変な案件であっても「私にやらせてください」と自ら発信していく。そんな心意気で業務にあたっています。
ー民間企業とのギャップを感じた部分はありますか?
津田:民間企業にいた頃は受注者側で、現在は発注者側と正反対なので仕事内容や役割はギャップばかりですが、良いものをつくるという気持ちは同じです。
そのような中でも、強いて言えば、公共の建築物の場合、どこか保守的で、「前例がない、他の類似施設ではやっていない」という理由で提案が通らないことがあるんです。ふつうを好むところはギャップを感じた部分でした。お金をかけて、華美にしたいという話ではもちろんないのですが、「ふつうで良い」という意識を「より良いふつうをつくる」というくらいのスタンスにアップデートしていきたいですね。
ー自治体の建築技術職の魅力についてお聞かせください。
津田:「ありがとう」の距離感が近いですね。公共施設を利用される市民の方から、学校であれば先生方から、自分の仕事に対して感謝をいただく機会が多いです。民間企業では、自分が設計した建物がどう運用されていてどう感謝されているのか、というところがわかりにくかったのですが、現在は小さな改修工事一つでも「ありがとう」を身近に感じられます。
また、コスパの良さは現在の仕事の大きな魅力ですね。前職では頭を常にフル回転させて長い時間働いていましたが、その頃と比べるとゆとりを持って仕事をすることができています。
ー休暇や残業などの労務環境や、職場の雰囲気についてもお聞かせください。
津田:残業は全くと言っていいほどありませんし、仕事のスケジュールも自分の裁量で組んでいます。子どもとの食事や行事への参加など、家族との時間が充実していますね。2か月間の育児休暇も取得しました。市役所全体としても、育児休暇を取得する男性職員は増えてきています。
職場の雰囲気は大変良く、相談からフランクな雑談までしやすい環境です。その部分は、民間企業とあまり変わらないですね。
ーどんな方に来ていただきたいですか?
津田:どんな方にでも来ていただきたいですね。また、民間企業での働き方に疲れてしまった、働き方を変えたい、という入庁の形もありなのではないでしょうか。民間企業とは立場が変わり、新しい発見もきっとあると思います。
さらに、自分自身を高めるための時間を取りたい、という方にもぜひ来ていただきたいです。私も、民間企業時代は勉強時間が思うように取れませんでしたが、雲仙市に来てからは働き方にゆとりが生まれました。おかげで自主勉強をして資格を取得し、キャリアを積むことが自信につながっています。
ー最後に、雲仙市の魅力をお聞かせください。
津田:まちの魅力として「自然が豊か」「食べ物が美味しい」という感想はどこの田舎でも聞こえてくるものだとは思いますが、雲仙市の小浜温泉街から見る夕日は段違いの美しさで、とても好きな景色です。一度まちを出て戻ってきたからこそ一層実感できるのかなと思っています。不便を感じる部分はもちろんありますが、雲仙市の職員として、まちの良いところをさらに伸ばしていきたいですね。
ー本日はありがとうございました。