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100年先を見据える仕事〜建築技師としてまちの未来をつくる~

岩手県住田町役場の建築課で建築技師として働く田畑 耕太郎さんに、これまでの経歴や役場での仕事と職場環境についてお話を伺いました。

—これまでのご経歴を教えてください。

田畑:高校卒業までは秋田におり、進学を機に東京で7年ほど暮らしていました。その後、ご縁が重なり住田町役場に入庁したのですが、当時は建築士の資格を保有していなかったので、事務職として採用されました。入庁2年目で建築士の資格を取得し、そこから技術職として働くこととなりました。

—なぜ、住田町役場に応募されたのですか?

田畑:大学院時代に参加していた、東日本大震災の仮設住宅に関するプロジェクトがご縁で、住田町の採用試験があることをお教えいただいたんです。プロジェクトに参加するまでは、住田町を訪れたことはありませんでした。

仮設住宅というと、軽量鉄骨でできているイメージが強いかと思いますが、住田町は林業が大変盛んな町なので、町内で採れる木を使用して木造の仮設住宅を建設していたんです。その仮設住宅の団地にお住まいの方々が集まり、憩えるような「あずまや(休憩などができる小屋)」を作ろうというプロジェクトがあり、私はそのメンバーのひとりとして参加していました。

当時、住田町役場には建築士が1名しかおらず、町内の方から「建築を勉強しているのであれば住田町役場を受けてみてはどうですか?」とお声がけいただきまして・・・それが大学院2年生の夏でした。その後、冬の採用試験を受け、翌春から住田町に移住して入庁という流れになります。

—住田町役場建築課の仕事の内容を教えてください。

田畑:建設課には土木、住宅、水道担当がおりまして、私は住宅担当です。主な業務としては2つありまして、まずは町の公共工事の発注、もう1つは180戸ほどある公営住宅の管理ですね。住宅関連の業務に、建築関係の仕事が付随するイメージです。

住宅担当は私と、もう1人事務方がおります。住宅に関する管理業務、例えば家賃算定業務などは事務方が担当し、修理改修工事などの話になると私が出ていきます。

ー仕事内容について入庁前後でギャップを感じられましたか?

田畑:建築に関する仕事をするものと思っていたので、住宅の管理をするとは考えもしませんでした。ですが今では、住宅の管理も広い意味では「建築」の範疇だと考えるようになりました。

「人が暮らす環境を根っこから考える」という視点からすると、今与えられている仕事に対してはポジティブな思いを持っています。日々の業務が、建築技師としての技術の向上や、考え方のブラッシュアップに繋がっていると感じます。

また、建築士としての技術的なスキルが求められることはもちろんですが、それと同じくらいコミュニケーション能力が求められる仕事なのだと思います。現場で職人さんに相談をしたり、設計を一緒に進める業者さんへ、こちらの思いを伝えるときに、特にその大切さを実感します。

コミュニケーション能力を培うという意味では、住民の方と接する機会が多いことはとてもありがたいことだと感じています。

ー庁内の他の職員との関わり方を教えてください。

田畑:建物を建築・改修するときに、その建物を管理している課との調整を行う必要があります。予算はそれぞれの課でもっているので、そこから工事に関する依頼が来る、という形ですね。そうした背景から庁内でコミュニケーションする機会は多くありますが、小さい役場なので連携は取りやすいと感じています。

ー住田町には木造建築物がたくさんありますが、なにか町全体での取り組みを行っているのですか?

田畑:住田町の面積の9割が森林であるため、その豊富な森林資源を利用した多くの事業者が町内にいます。住田町の公共施設を木造にすることで、そうした方にお金を還元できるという側面が大きいですね。

他の市町村に対しては、住田町の木材をアピールするというよりも「木材にはこういう使い方があるんだ」という価値観の提示ができたらいいですね。社会全体がSDGsやカーボンニュートラルの観点から「木を使っていこう」という風向きですので、今まで木でつくっていなかったものを木でつくってみるという選択肢を与えるきっかけになればと考えています。

—お仕事のやりがいや面白みを教えてください。

田畑:「発注者である」ということがいちばんの大きな魅力だと思います。当然ながら発注業務には大きな責任が伴うのですが、もし普通の設計事務所で勤務していたら知ることのできなかった奥深さや魅力があるように感じます。

「だれかの求めに応じて建築物を建てる」のではなく、それを作ることでなにが起こるかを想像し、町がどうなっていくか、なるべきか先の先を考えながら仕事をする。それはきっと発注者にしかできない仕事ですよね。

いかに良い設計者を登用したとしても、その前提や条件を間違えてしまうとそのプロジェクトはうまく行かない。だからこそ、「発注する」という仕事は、建物が建つ前の段階のことを考える、とても意義深い仕事であると思っています。

入庁当時、直属の上司から「公務員とは100年先の仕事を見据える仕事」なのだと教わり、その言葉がたいへん印象に残っています。初心を忘れず、常にそういうマインドを持って業務に当たらなくてはならないなと感じます。

一方で、建物を建てる前提条件を考える、という検討フェーズは、とても重要な業務であるにも関わらず、日本全国の自治体の半数以上において建築技師がいない状況なんです。

それらの自治体では、おそらく専門外の職員が、大変なご苦労されながら業務に取り組まれているのだと思いますが、そういう意味では、「建築系の公務員の職がある」ということがもっと社会に広まるといいなと思っています。

学生の方からは「技術職の就職活動では、公務員よりも民間企業を希望する人が多い」ともよく聞いています。「プロジェクトの上流に関わると面白い」ということは認知されているのですが、そうした方はコンサルやデベロッパーを選ばれるんですよね。そうした業種に負けず劣らず、小さな自治体で働くということもたいへん面白いので、職業を選ばれる際にはぜひ技術系公務員を同じ土俵に上げてほしいですね。

—田畑さんが考える「住田町の良さ」について教えてください。

田畑:小さい町なので、職場内外で1人1人に与えられている役割がとても大きいと感じます。役場の中でもそうですし、地域の中で共同生活を送っていく上で、消防団活動や町内会への参加が欠かせません。

都会では人が多いので、消防団や自治会といった「他人が提供してくれるサービス」にタダ乗りしている状況でしたが、小さい町ではそうした活動がとてもクリアに見える気がします。お互いが協力し合いながら生活していることを肌身をもって感じますし、様々な価値観や物の見方を知るという意味ですごく貴重な経験をさせてもらっていると思います。

住田町は自然環境も大変豊かです。ただ、こうした環境は自然発生的に与えられたものではなくて、その裏にはそれらをきちんと整えてる人たちが必ずいます。そういう人たちがこの町にはたくさんいるんだな、と思うと、とてもいい町なんだなと実感しますね。

—最後に、住田町役場へ応募を検討している方にメッセージをいただきたいです。

田畑:ひとつの建築が企画され、設計され、工事され、使われるという「最初から最後まで」にきちんと関わりたいと考えている人にとっては、絶好の環境であると感じます。大きな組織や設計事務所ですと、プロジェクトの一部に携わって終わり、ということが多いと思います。住田町役場では、建物を建てる前の段階から、その後の維持管理まで自ずと携わることになるので、建物の行く末を見守りながら、そこで得られた知見を次の建物にフィードバックしていく、という取り組みも可能となります。

たいへん大げさな言い方かもしれませんが、小さな町の建築技師はデベロッパーでもあり、ファシリティマネジャーとして施設を管理する人でもあり、設計者でもあるといえるのかもしれません。そのくらい様々なフェーズで、建築に触れ続けることができるという魅力があります。

ぜひ、興味がある方はご応募よろしくお願いいたします。

—本日はありがとうございました。

この記事は2023年12月21日にパブリックコネクトに掲載された記事です。

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