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湖南市役所職員に聞く、多文化共生社会の課題と展望—外国人市民との共生を支える仕事とは

平成20年度に滋賀県湖南市役所入庁後、現在は人権擁護課 多文化共生・男女共同参画推進係の職員として働く堀田 剛史さんに、入庁のきっかけやこれまでのお仕事内容、職場環境をはじめ育休取得時の状況などお話を伺いました。

—はじめに、これまでの経歴を簡単にご紹介ください。

堀田:入庁の経緯は、学校卒業後に3年ほど湖南市役所で臨時職員としてポルトガル語の通訳を勤め、そこから平成20年度に正規職員として入庁しました。

ポルトガル語は、高校のときにブラジルに留学したことをきっかけに学びはじめました。いくつかの選択肢から偶然ブラジルが留学先となり、現地での経験を通してブラジルを好きになっていったんですね。

そこから大学でもポルトガル語を専攻して、もう一度留学も経験し、さらに知見を深めていきました。

—なぜ湖南市役所を選ばれたのですか?

堀田:もともと私は出身が岐阜県で京都の学校に通ってはいたので、湖南市とは縁がなかったです。そんな中で、ポルトガル語を使える仕事として通訳の仕事を知り湖南市の臨時職員へ応募しました。

—湖南市はポルトガル語を使う国籍の方が多く住んでいるのですね。

堀田:はい、工業団地があり日系ブラジル人を中心にだいたい30年前から増え始めたという経緯があり、現在約1,500人のブラジル人の方が住まれています。

滋賀県以外にも、岐阜県や愛知県なども同様の傾向があるようです。やはり職を求めて来られる方が多い中で、地域に住むことになるのでどのように日本の中に溶け込んで行くかという難しさがある中、通訳の仕事が求められているのかなと思います。

—臨時職員としてポルトガル語の通訳として仕事をする中で、いつ頃から「正規職員を目指そう」と思われたのでしょうか。

堀田:その後自身のライフプランを考える中で、正規職員として働けた方が良いなと考えたことと、湖南市役所でブラジルの方と接する中でも「自分にできることはさらにあるな」と思ったので、それなら正規職員になるのが良いのかなと思い入庁することにしました。

—正規職員になられてからの業務を教えて下さい。

堀田:まずは市民課に配属されました。それまではポルトガル語通訳としてポルトガル語圏の方とのやりとりが主だったのですが、市民課に所属してからはもちろん日本の方をはじめ窓口対応として市民の皆さんとのやりとりが増えました。

その後企画・まちづくり課に異動し、そこでは多文化共生推進担当として従事していました。外国人施策の総合的な方針を決めたり、翻訳を行ったりということを経験しました。

次の教育委員会でも学校教育課で日系ブラジル人の子どもたちの就学支援や不就学児童を減らす活動、保護者対応などを中心に業務を担当していました。

その次の生活環境課では環境保全のためにごみや公害、火葬場の管理が主な業務ですので外国人施策関連には唯一対応していないですね。

—そしてもう一度市民課に戻られた後に、現在は人権擁護課に在籍されているとのことですが、どのようなお仕事をされていますか?

堀田:人権擁護課には3つの係がありますが、私は多文化共生・男女共同参画推進係に所属しています。多文化共生推進の仕事は外国人市民の方とともに暮らす街づくりのための啓発と、過去に配属された企画・まちづくり課での仕事に近いものになりますね。

私は啓発のための取組や、翻訳なども担当しています。たとえば、日本人の住民の方向けの多文化共生理解についてのイベントやフォーラムを開催したり、外国籍の方に向けて情報伝達を行うために広報誌や公的書類などの翻訳を行ったりしています。

最近ではベトナムやインドネシアなどアジア系の方も移住されているのですが、やはり多いのはブラジルの方ですね。

なのでポルトガル語以外の言語にも対応するために、翻訳という道だけではなく、たとえばひらがなやふりがななどを用いた「やさしい日本語」を使ったり、市民対応でも自動翻訳機を使って対応したりなどより合理的な方法を模索している最中です。

また、人権擁護課ということもあり、外国人の人権に関する啓発についても担っています。

—人権擁護課の構成についてお伺いします。現在課の人数はどれくらいですか?

堀田:人権擁護課は会計年度任用職員を合わせて10名です。私のようにポルトガル語の通訳や翻訳ができる職員は、私の他に会計年度任用職員でもう1名います。

ただ先ほどもお話したアジア系の言語や英語が堪能な職員はいないので、そのあたりはやさしい日本語や翻訳機を使うなどして対応しています。

—庁内や課内の連携や、風通しの良さなど仕事のやりやすさはいかがでしょうか?

堀田:風通しは良いと思います。諸々の連携や調整がかならず出てくる仕事なので、その中でも、風通しの良さが活きる職場だと感じています。

また、これは自治体の規模にもよるかもしれませんが、庁内の職員はだいたい見知った顔なので、名前を聞いて「あ、あの人やろ」とすぐ顔が出てくるようなアットホームさはあります。

—働き方について、残業の頻度や休日(有給休暇を含む)の取り方などはいかがですか?

堀田:時期によっては、協力して残業することはありますが、管理職の方も含め積極的に早く帰ったりしているので、常に残業をしている職場ではありません。休みの取得も融通が利くと思います。

—堀田さんは昨年(令和4年)に育児休業を取得されたとのことですが、取得しようと思ったきっかけや、取得した際や職場復帰後の環境の変化などはありましたか?

堀田:当時、上の子がまだ2才半だったので、妻だけで小さな子を見ながらの出産は大変だろうと思い、1ヶ月という限られた期間ではありますが育休は取得しました。

男性の育児休業の取得は私が取得する頃から増えはじめ、現在お子さんのいらっしゃる職員さんでは8割程度の方が取得していますね。特別取りにくいという感じはなかったですし、むしろ上司の方から「取得してはどうか」と言っていただいたのですが、やはり一人が取ると他の人も取りやすくなるというのもあるのかなと。

仕事については数ヶ月前から上司に相談しつつ準備もスムーズにいき、期間も1ヶ月でしたのでそこまで大変ということはありませんでした。

上の子が産まれた当時は男性が育休を取得するというのは少なかったように思いますが、ここ数年で取得する数が加速しているように思います。

—入庁前に描いていたキャリアに進んでいっている感覚はありますか? 「もっとこういうことがしたい」という考えがあればお聞かせください。

堀田:入庁から外国人市民の方と多く関わる機会があり、私としてはやりたいことをやれているという実感はあります。

ただその一方で、私が通訳対応をしながら情報伝達を行っていくという取り組みには課題もあると思っています。

というのも、多言語化対応をすることで私に頼ってはいただけるのですが、そのことで日本語自体や日本文化に馴染み、覚えていってもらう機会は奪ってしまっているという側面もあると思っています。

求められれば助けたいと思いますが、最近は日本で生まれ育った日本語をネイティブとする外国人市民も増えてきているので、多文化共生という点でも、お互いの文化や言語に理解を示していけたら良いなと感じます。

だからこそ、業務として自分のやりたいことをやれていると思う反面、さらに湖南市にいる外国人市民のためにできることや新しいことはあるのではないかなと思いながら仕事をしています。

—通訳を生業にしていたからこその葛藤ですよね。他の自治体の例を参考にしたり、情報収集を行ったりということはあるのでしょうか?

堀田:自治体の方針として「多言語化による情報提供」を推進しているところは、すぐに対応できる通訳を配置していたり、一旦様子を見たりというというところもあります。

私が入庁した平成20年度当時は、私のようにポルトガル語の通訳を配置するという市町が増え始めた頃かと思いますが、現在はあらゆる自治体にさまざまな言語で対応できる通訳を配置しているように感じます。

—長く湖南市でポルトガル語関連のお仕事をされてきて、ブラジル人の方との交流はありますか?

堀田:私は、たくさんのブラジル人と関わる中でブラジル人のコミュニティと交流を持つようになりましたが、市民である日本人とブラジル人との交流というのはまだまだ少ないです。

ポルトガル語ができるということで私を頼ってくれる方は多いです。入庁当時は公務員の仕事に全然触れたことがない中で通訳をやっていたので失敗も多かったですが、当時は今ほど通訳がいなかったということもあり、そのままずっと長く勤められています。

市民の方からも感謝されますし、職員からも「いてもらえてよかった」と言ってもらえる機会があるので、そこはやりがいだと思います。

—最後に、堀田さんが感じる「まち」としての湖南市の良さはどこにあると感じますか?

堀田:やはりブラジルの方が多いということでしょうか。外国人市民が増えることにマイナスの印象を抱く方もいるかもしれませんが、私としては良いことをもたらすことも多いと感じます。

街角にブラジルのスーパーがあったり、ブラジル料理のお店があったり、ブラジル人がいることで活気づいたりさまざまな文化が入ってきたりするので、そこを多くの方に「面白い」と思っていただけるかというのも私たちの仕事なのかなと思います。

—本日はありがとうございました。

この記事は2024年8月6日にパブリックコネクトに掲載された記事です。

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